関係者からのメッセージ

2010年6月7日

ひとがはじめて見る景色

マルチバンド分光カメラ(AMICA)チーム 中村 良介(産業技術総合研究所)

「いまだかつて誰も行ったことのない場所へ行って、その場所の景色を見る最初の人になる」
人跡未踏の地がたくさんあった100年前ならともかく、現在の地球でこの願いをかなえることはかなり困難です。けれど、「はやぶさ」が送ってくれた最初のイトカワ画像を見た時、まるで自分がその場にいるような興奮を覚えた人は少なくないでしょう。かく言う自分もその一人。
イトカワのサンプルを取得するため表面に降下していく途中には、画像の分解能もぐんぐんと高くなります。一枚ごとに、それまでに見えなかった新しい景色が見えてくる。
「はやぶさ」は、それをあたかも自分自身の体験であるかのように感じさせてくれました。

そして今、「はやぶさ」はイトカワで拾ったカケラとともに、懐かしい地球に戻ってこようとしています。カケラをいれたカプセルがウーメラの砂漠までうまくたどり着ければ、
「イトカワという小惑星がどうやってできたのか?」
「地球はどんな物質から作られたのか?」
「小惑星はどうして惑星になれなかったのか?」
といった数々の疑問に対して、いままでよりもはるかに詳しい答えが出てくるはずです。これもまた、広い意味で「新しい景色を見る」ことだと言えるでしょう。

しかし残念ながら(ではなく嬉しいことにと言うべきですかね)、ひとかけらのサンプルですべての疑問が解き明かされることはありませんし、宇宙には僕らが行ったことのない場所/見たことのない景色がまだまだたくさんあります。
イトカワは最初の一里塚でしかない。

この先の道のりを思うと気が遠くなることもあります。けれど、「はやぶさ」はまさに遥かな道のりをたどって地球にかえりつこうと最後の努力をしているのです。
生みの親である我々が、途中であきらめてしまうわけにはいかないでしょう。
未知の世界に赴こうという気持ちが我々の中に存在する限り、「はやぶさ」の後継者達が尽きることは決してないと信じています。


筆者紹介

中村良介さんはマルチバンド分光カメラ(AMICA)チームの一員で、現在は産業技術研究所に所属しています。
初めてお会いしたとき、彼は学会のポスターの前で、リモートセンシングの可能性について熱く語っていました。2007年6月に、「はやぶさ」による小惑星イトカワ観測について語っていらっしゃるのはこちらですよ。
特集「はやぶさ」がとらえたイトカワ画像 > イトカワはいつ、どこからやって来たか?

カメラで天体を撮影すれば、様々なことがわかります。たとえば、クレーターの数や密度や大きさは、その天体が経験した衝突を語ります。表面の石ころの細かさやサイズ分布はもとより、小惑星イトカワのサイズ(500m)の天体ですと形そのものも、その生い立ちを知る手がかりになるのですよ。(ばあや)

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