関係者からのメッセージ

2010年7月13日

最後の記録

データレコーダ・オンボードコンピュータ担当 伊賀 小弓里(日立製作所)

「はやぶさ」(MUSES-C)ではデータレコーダ(DR)とXRS・NIRS共用のオンボードコンピュータ(OBC)の開発に関わらせていただきました。

DRについては、それまでのテープレコーダー的な記録/再生ではなく、ある程度自由に領域を指定できる複数のパーティションに可変長データをランダムに記録するという、それまでに無い機能を持っていました。記録/再生にいろんなパターンが考えられるので、設計にも苦労しましたが、試験方法にも頭を悩ませたのを思い出します。

OBCの方は民生用のRISCチップを使用しており、信頼性を上げるために、クロックレベルで同期させた3重系で動作させて、出力を多数決する方式をとっていました。3つの系を同期させる方法やエラーがあったときの復帰方法など、色々試行錯誤を繰り返しました。コアとなるRISCチップの耐放射線性に問題が出たときにはもう駄目かと思いましたが、様々な方々にご協力いただいて、なんとか対策をすることができました。

重量削減にも苦心しました。「はやぶさ」は重量リソースが非常に限られていたので、普通はアルミニウム合金を使う筐体をマグネシウム合金にし、ネジはNECさんから分けていただいたチタンネジにし、製造現場のおじさんに「(短絡防止用に基盤に塗布する)コーティング剤は、なるべく薄く(でも、薄すぎないように)塗ってください。」とお願いして、1gでも軽く・・・とダイエットに励みました。

そうして手塩に掛けた機器を搭載した「はやぶさ」が地球を出発してから帰ってくるまでの7年間の間に、私の方は宇宙からは離れた仕事をするようになりましたが、おかげさまでOBCはイトカワ近傍でちゃんと機能したようですし、DRは設計寿命を越える7年もの間、きちんと動作してくれたようです。

カプセルを放出した後に撮影した最後の地球の映像はDRに記録されて、それを再生している途中で消感したと伺って、ああ、最後まで頑張ってくれたんだなぁと、感無量です。これも開発に協力してくださった方々や、「はやぶさ」関係者の方々のおかげだと思います。本当にありがとうございました。

けれども、まだまだ宇宙は無限に広がっています。次のミッションに向けて頑張ってください。


筆者紹介

日立製作所の伊賀小弓里さんは、「はやぶさ」のさまざまなデータの記録・再生を行うデータレコーダ(DR)や、近赤外分光器と蛍光X線スペクトロメータのオンボードコンピュータ(OBC)を開発されました。

伊賀さんは「はやぶさ」以外にも、「のぞみ」「すざく」のDRや「かぐや」「れいめい」のOBCを手がけてこられました。DRやOBCは放射線だらけの宇宙環境に長期間耐え、非可視中の姿勢情報やイトカワ・地球画像から蛍光X線観測値まで様々なデータを地球にもたらしてくれました。(delta-V)

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