関係者からのメッセージ
2010年5月11日
“はやぶさ生命体”は不滅です
元サイエンスマネージャ 藤原 顕
ISASをはなれてから大学生や一般の人、さらには小学生を相手に宇宙の話をする機会が増えました。宇宙の話をするときに必ずでてくるのが日常使われないような桁の大きな数です。これを実感として分かってもらうためによく使うのが、たとえば「地球を1円玉の大きさとすると...」といったたとえ話を出すことです。
「みなさんは、「はやぶさ」が地球からどれくらい離れたところまで行ったかを思いめぐらせたことがあるでしょうか。プロである私たちですら数値ではわかっていても案外実際に感覚をつかんではいません。「はやぶさ」は最遠方で地球から光の速さでざっと15分かかるところまで飛んだのですが、さきほどのたとえでいうと400m以上の遠方にまで飛んだことになります。こんなに遠方にある1ミクロンにもみたない天体に着陸して地球に戻ってくるのです。」
というと聴衆はへ~という顔をします。
「ちなみにこれまで、人類が他の天体に着陸してもどってきたのは月だけです。その月はさきほどの1円玉のたとえでいうとたった60cmていどのところにあるのです。」
というと、さらにへ~という顔をして「はやぶさ」がいかに遠方まで飛んだかに気づきます。
さらに、
「実は日本はサンプルリターンはおろか惑星探査すら数えるほどしかやったことがないのです。」
というとあらためてへ~という顔をされます。「はやぶさ」はこれほど無謀ともいえる大探検をやってきたわけですね。
はやぶさ君があたかも意志をもっているかのように擬人化され愛着をもって見まもられています。この大探険はじつは、それ以上に日夜支えてきたチャレンジ精神あふれる個々のチームメンバーが一丸となってあたかも強い意志をもったひとつの“はやぶさ生命体”のようにして動いてきたからこそなしえたものです。昔フレッド・ホイルの暗黒星雲というSFがありました。これは暗黒星雲があたかもひとつの生命体のように意志をもっているという話でしたがまさにそんな感じです。
“はやぶさ生命体”は誕生以来から数えてざっと17歳ぐらい、つぎつぎとやってくる難関をのり超えて大きく成育しました。よくぞここまでたどり着きました。いよいよ帰還目前、力を振り絞って難関を乗り越えられるように....機体は消え去る運命とはいえ、この強力な“はやぶさ生命体”は不滅です。
筆者紹介
藤原先生は、海底に沈積した宇宙塵の分析や、独創的な超高速度衝突実験によって、小惑星の姿を追い続けています。藤原先生の実験装置は火薬とヘリウムを使う二段式軽ガス銃で、飛翔体を4km/secに加速することができます。小惑星帯での平均衝突速度よりちょっと遅いくらいの速度です。(ばあや)
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