関係者からのメッセージ

2010年5月24日

「おかえり」と言うことの覚悟

キュレーションチーム 石橋 之宏

「はやぶさ」が地球へ帰還した後、小惑星イトカワから持ち帰った試料を扱う「キュレーション」チームがその作業の本番を迎えます。私はこのチームにいます。キュレーションの主な仕事は2つあります。まず、「はやぶさ」が地球に降ろしたカプセルからイトカワの試料を回収し、基本的な特徴を調べながらそれらをカタログ化して保管します。そして将来にわたって日本や世界中の研究に供するために、これらの試料の貸し出しを行う予定です。

「はやぶさ」が持ち帰る試料は、小惑星と隕石の橋渡しをする物質として、その意義が多くの場で紹介されています。「太陽系の化石」とも例えられる小惑星。あなたは、そこに何があると想像しますか?大学生であった頃の私は、生命の種(前駆物質)となり得る有機物もあるのだろうと期待していました。みなさんが思ういろいろな疑問に対してもイトカワの試料がそのヒントを与えてくれることでしょう。

「はやぶさ」プロジェクトの中で若輩者の私も、このプロジェクトに出会ってから15年が経ちました。当初は学生として、小惑星の表面にある物質をその場で調べる、近赤外線を用いた分光器の設計に参加しました。その後は「はやぶさ」が訪ねる候補となった小惑星の基本的な特徴を、地上からの光学観測によって調べました。イトカワへ到着した「はやぶさ」はその場でのできる限りの観測を行い、多くの発見をもたらしてくれました。このたびイトカワの試料が地上に到着すれば、考え得る様々な分析によってさらに詳しく調べることが可能になります。

そのためには、イトカワの試料は地球にある物質との接触をできるだけ避けなければなりません。また、回収できる試料の量はごくわずかであると予想されています。試料が肉眼では見えない程小さい場合でも確実に回収できるように、キュレーションチームでは独自の装置や手法を開発してきました。期待と不安が入り交じる中、私たちはリハーサルを重ねて本番に備えています。試料をカプセルから取り出すだけでも慎重に行う必要があり、そのために作業は長丁場になると予想されています。その間ひとすじ縄ではいかないことも起こるかもしれません。

「はやぶさ」はこれまでも幾多の困難を乗り越えてきました。キュレーションチームもこれまでのリハーサルで築き上げた手法、実験で積み重ねた経験と、どんなことがあっても最善を尽くす決意を持って、イトカワ試料の回収に取り組む覚悟です。そのようなことを想い、コンテナと対面した時に私は一言「おかえり」と声をかけたいと思っています。時には、みなさんが「はやぶさ」に寄せて下さった応援メッセージに、私たちの背中を押して頂こうとも思っています。イトカワの試料についてお話できる機会をどうぞ楽しみにお待ち下さい。


筆者紹介

石橋さんは、学生のときから、安部正真准教授とともに、「はやぶさ」の探査候補小惑星を観測し、近赤外線分光器の設計に携わりました。現在はサンプルを受け入れる設備の準備を着々と進めてます。
大学院生時代から宇宙科学研究所で研究を行っていましたよ。太陽系の天体の来し方行く末に思いをはせる、理学系メンバーの一人でもあります。ちなみに、チラ裏の「はやぶさ君の冒険日誌」に、賛同してくれた人の一人です。
「「はやぶさ」の旅立ちを見送った後に宇宙研を出て、「はやぶさ」を世の中に紹介する仕事をいくつかしました。そこで市民のみなさんの声をたくさん聴いて宇宙研に戻ってきました。」とも、石橋さんは語っていましたよ。サンプルの分析が進んだ頃には、更にまた、面白いお話が聞けそうですね。(ばあや)

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