関係者からのメッセージ

2010年5月24日

「はやぶさ」と私

データ処理系・地上系担当 山田 隆弘

「はやぶさ」は私が関わった多くの衛星プロジェクトの中でも私にとっては特別なものの一つである。私は「はやぶさ」プロジェクトにおいていくつかの仕事をしてきたが、まず最初に担当したのは、探査機に搭載されるデータ処理システムの機能を考えることであった。紆余曲折はあったのだが、多くの人といろいろな検討を行った結果、私の提案した機能がほぼ全て探査機に搭載されることとなった。これらの機能は、探査機の打ち上げ後にいろいろな場面において有効に機能することとなり、「一仕事やったな」と強く感じたものである。

次に担当したのは、NASAの地上局設備(深宇宙通信網)と相模原の運用設備とを接続し、相模原からNASAの深宇宙通信網を経由して飛行中の「はやぶさ」をリアルタイムに制御するためのシステムを構築することであった。これも初めのうちは細かなトラブルがいろいろとあったのだが、2年かけてシステムの構築を行い、なんとか打上げに間に合わせることができた。

その次に担当したことは、打上げ時から今に至って担当していることであるが、NASAの深宇宙通信網との間の運用上の調整である。「はやぶさ」は打ち上げてから小惑星へのタッチダウンを経て今に至るまで、実に様々なトラブルが発生し、他の探査機ではあり得ないような様々なアクロバット的な運用を行ってきたのだが、このような運用を経験できたことは実に勉強になった。

しかし、「はやぶさ」が私にとって特別であるのは、このような技術的な仕事においてではなく、人間的なつながりにおいてなのである。「はやぶさ」の関係者はどんなトラブルが起きても決してあきらめない。「はやぶさ」のためであれば、夜中であろうと休日であろうと管制室に馳せ参じてくる。これらのプロ中のプロの人達が互いに信じ合い、助け合い、補い合いながら仕事を進めている。私はNASAでも仕事をしたことがあるのだが、「はやぶさ」の仕事の仕方はNASAのそれとかなり似ている。「はやぶさ」が満身創痍ながらも全力を振り絞って地球に戻りつつあるのは、地球でこのようなすばらしい人達が頑張っていることを「はやぶさ」も知っているからだと思う。「はやぶさ」の仕事があと1ヶ月で終わりになるのは寂しくもあるが、こちら側も全力を振り絞って頑張りたいと思う。


筆者紹介

山田先生は、「はやぶさ」の運用ではNASAのアンテナの深宇宙ネットワークDSNとの交渉を一手に引き受けています。
よく「NASAのアンテナ担当者との通信役は、アンテナや通信の仕組みがわかった人がやらないと、いざというときに対応ができない」と、飄々とした風情でおっしゃいます。そして、DSNを使った運用の時には深夜早朝をいとわず管制室にいらっしゃいますよ。(ばあや)

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