関係者からのメッセージ
2010年5月25日
カプセルを探しに砂漠へ
SVの一人、XRS担当、回収隊・方探班 岡田 達明
この6月、「はやぶさ」のカプセル回収のために、アボロジニーの聖地、カンガルーやサソリの棲む、オーストラリアの砂漠まで向かうことになった。方探班の一員として、小惑星イトカワの試料の入っているはずのカプセルが出す電波を追跡し、カプセルの落下地点の推定範囲を1km程度に狭め、カプセルの捜索をしやすくするためだ。さらに地球大気への高速突入時にカプセルを焼失から守ってくれる熱シールドも砂漠を彷徨って探しまわるのだ。山歩きや自然散策は好きだが、今回は過酷な現場作業となるに違いなく、緊張感をヒシヒシと感じている。しかし方探の訓練や準備には余念はなく、現場に行くものは高い意識と固い結束で、間違いなく見つけてやるんだと誓っている。
20年目。そう、20年だ。大学院に入学直後に、指導教官の水谷先生より「月震解析」か「蛍光X線スペクトロメータ」のどちらかをやらないかと聞かれ、後者を希望した。装置開発に興味があったことと、同級生の寺薗君(現会津大)が月震解析に高い関心があることを知っていたため、自然にそう答えたのだ。
それは将来の小惑星探査を目指した基礎開発だった。1996年、アンテロス。それは最初に聞いた打上げ年と対象天体である。小惑星ランデブー計画。カッコいい響きに、夢を感じた。しかし実はミッションはまだ影も形も無く、これから提案すると後で知った。仕方がない。小天体探査WGに参加し、提案書の執筆にも加わった。
そんな折、アメリカで「上手い、早い、安い」のディスカバリ・シリーズが始まり、最初にNEAR(小惑星ランデブー)が選定されてしまった。日本は更にその上を行く小惑星サンプルリターンを目指すことになった。無茶なこととも思ったが、幸運にして工学実験衛星「MUSES-C」、後に「はやぶさ」と呼ばれるミッションは立ち上がった。
しかし、、、打上げ年度は聞くたびに遅れ、対象天体もそれにつれて変わる。「はやぶさ」自体の遅れのほか、ロケットの打上げ失敗などもあり計画は当初の予定通りには進まない。打上げ時期が変わるとエネルギー的に地球との往還が可能な小惑星も変えざるをえない。とはいえ、関係者のたゆまぬ努力と協力により、ついに打上げの日を迎えた。2003年5月9日。始めてから、まる12年。
打上げ後は、決して順調とはいえない苦悩の運用が続き、自分を含むスーパーバイザー陣は運用時間中は管制室に張り付くこととなった(電気推進はノウハウの確立した帰路では断然安定性を増した!)。探査機は地球スイングバイを経て2005年に小惑星についに到着。そして、「蛍光X線スペクトロメータ」も含めて科学観測の実施。後にScience誌特集号に7編掲載される成功となる。
タッチダウン。問題のタッチダウン。寝る暇もなく、3交代でスーパーバイザーを務め、往復伝播遅延が35分以上かかる3億kmの彼方の衛星を操る。何とかタッチダウンに成功したが、試料はどうなった?試料が採取できているかどうかは誰も知らない。帰還後のお楽しみだ。たから何が何でもカプセルを回収しなくてはならない。これは、われわれに課せられた使命。
帰路についた。打上げ後7年間にわたりスーパーバイザーを務め、長い伝播遅延と超低速のビットレート(時にはビーコンのみ)に宇宙の広大さを実感しながら運用してきたが、それももうすぐ終わる。「はやぶさ」は最終章を迎える。これまで「はやぶさ」の大イベントの時は全て管制室で過ごしてきたが、最後の瞬間には初めていないことになる。オーストラリアの砂漠でその時を迎えるためだ。今回のリエントリ、そしてカプセル回収は1回限りの、やり直しのできない実験だ。しかし、ただの1回のためだけではない。月、小惑星、惑星など太陽系天体からのサンプルリターンは今後とも最重要な科学ミッションであり、これがサンプル地上回収の方法論の実証の機会であり、また経験と実績を積む貴重なチャレンジの機会でもある。そのためにも一番現場に近いところに行っておきたい。
5月14日、方探班の、そしてカプセル回収用の機材が相模原からオーストラリアの現地に向けて発送されるのを並木さんや鳥海さんらと見送った。魂も一緒に送った気分だ。。。。
筆者紹介
岡田先生は、搭載機器においてはXRS(蛍光X線スペクトロメータ)担当、旅の途中ではスーパーバイザー、そしてカプセル回収隊・方探班と、多彩な業務を一手に引き受けていらっしゃいます。
XRSはX線で天体を調べる装置ですが、皆さまが健康診断などでご存知のX線撮影とは、ちょっと違いますよ。健康診断では体の中を通りぬけたX線が描く陰影を見ますが、XRSは、太陽の出すX線が小惑星表面で反射されたのを測定して、そこにどんな元素が含まれているのかを調べるのです。(ばあや)
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