関係者からのメッセージ

2010年6月6日

長い長い物語の一区切り

マルチバンド分光カメラ(AMICA)チーム 齋藤 潤(東海大学)

今、私の手元に1冊の古ぼけた小冊子があります。タイトルは「小惑星サンプルリターン小研究会」。1985年6月に当時目黒区駒場にあった宇宙科学研究所で開かれた研究会で講演された内容がまとめられた冊子です。

当時私は大学4年生でしたが、子供の時にアポロ11号の月着陸をTVで見て以来宇宙の探査に興味を持ち、また小学生から中学生のころに流行ったアニメの「宇宙戦艦ヤマト」や「ガンダム」、あるいは映画の「2001年宇宙の旅」の影響も多大に受けて子供ながらに宇宙に関わる研究や業務を職業に出来れば良いとずっと思っていました(アニメとSF好きは今も変わりませんが…)。
大学に進学後、卒業研究の研究室配属の時も「惑星探査に関わりたいので研究会などの情報を教えてください」と指導教官にお願いしたくらい惑星探査という科学事業に強い興味を持って関わりたいと念じていました。その「夢」へ向けて最初の一歩を踏み出した、私にとっては記念すべき研究会でした。研究会の後で配布された集録は今も私の自宅で大切に保存しています。もっとも、実は私はこの会議に遅刻した上に出席者名簿に名前を書かなかったので、この冊子にある出席者一覧に自分の名前が残っていないと言うのは今となってはちょっと残念ですが…

「はやぶさ」の構想と実現に理学面から重要な役割を果たされた藤原 顕先生(当時京都大学)もこの研究会で講演されています。日本の小惑星探査はこの頃から研究者有志による研究会の実施で検討が進んでいたようです。当時の私はまだ自分の卒論すら構想もできていないという駆け出しも良いところで、ただただ「これが自分のやりたい事だ!」と思いつつ、これ以降時間を見つけては研究会やワーキンググループに顔を出すようになりました。

その後いろいろな紆余曲折や難関もありましたが、正式に工学実験衛星MUSES-Cとしてプロジェクト化されたときには正直、夢に見た物語が今まさに始まったと感じました。プロジェクト化と同時にカメラ(AMICA)チームのメンバーになり、2002年からはチームリーダーとしてこのカメラによるミッションを成功させるべく本業の合間を縫って自分なりに精いっぱい働いたつもりです。機器開発から試験、打上げとイトカワへのCruising、そしてAMICAチームにとって最大のイベントはあの2005年のイトカワ観測の約3ヶ月間でした。この時私はすでにJAXAに移籍していましたが、今までの人生でもっとも忙しく、また充実した日々でした。今も忘れる事は出来ません。特にあのイトカワの特異な形状や表面状態を初めて運用室のディスプレイで見た時の驚きは忘れられません。
そしてカメラチームメンバーや姿勢制御系の方々(特に橋本 樹明さんと久保田 孝さん、ありがとうございます)の全力を挙げた御尽力により多くの貴重な画像を収得する事ができ、大きな科学的成果も上げる事ができたと思います。これもひとえにチームメンバーの皆様一人一人の努力と活躍あってこその成果だと私は考えています。本業の方でも様々なプロジェクトチームに参加しましたが、しかしその中でも「はやぶさ」AMICAチームは最高のチームだと思っています。

イトカワを離れた後、「はやぶさ」は様々な苦難を経て今故郷の地球へと帰ってこようとしています。AMICAは帰り道では使っていないため私たちの出番はありませんでしたが、それでも「はやぶさ」の動向についてはいつも気にかける日々でした。その「はやぶさ」がまさに帰還の最終段階へ向けて調整に入っている今、私が子供のころから夢に見ていた「惑星探査に一つの区切りまで関わる」という大きな目標が間もなく達成されるように感じています。

もちろん、「はやぶさ」の物語は帰還しただけで終わるものではありません。サンプルの分析や航行中に得られたデータの解析などまだまだ多くの貴重な情報を私たち研究者に与えてくれます。その意味では「はやぶさ」の物語は帰還で一区切りは付くものの、これからも物語は新たな局面へと続いて行くものだと思っています。
この脈々と続いてきた長い長い物語がこれからどうなっていくのか、私もJAXAを離れましたが、それでもメンバーの一人としてこれからも末長く見つめて行きたいと思います。

この物語、長い年月付き合うに値するものだと私は思う。
だから「はやぶさ」君、無事な帰りを待ってる。


筆者紹介

齋藤さんは、はやぶさミッションでは、層が厚く、個性の強いAMICAチームのメンバーをまとめ上げるリーダーとして活躍したの。天体表面の画像から得られる情報はとてもたくさんありますからね。AMICAチームの業績のまとめはこちらですよ。
特集:「はやぶさ」がとらえたイトカワ画像

このカメラは、工学系の人からは「望遠光学航法カメラ」と呼ばれているの。体重制限が厳しい「はやぶさ」ではカメラも一人二役ね。齋藤さんは、カメラを使った広報活動にも積極的に参加しているわ。イトカワにタッチダウンした時のブログにもね。(ばあや)

もっと詳しく

プレスキット

関連ページリンク