関係者からのメッセージ
2010年6月8日
新米スーパバイザのつぶやき
スーパバイザ 照井 冬人
縁あって、提案中である「はやぶさ」の後継機「はやぶさ2」の画像航法誘導制御系の検討に関係することになって3年弱、「はやぶさ」の運用の現場責任者であるスーパバイザとして運用に参加するようになって1年弱になる。プロジェクトの途中からの参加ではあるが、帰還直前の運用に携わることができて大変光栄に思う。比較的高齢のスーパバイザは新米のまま、その任を終えることになるであろうが、初めて「はやぶさ」の追跡運用を見学したとき、その運用方法が自分の知っている衛星の運用スタイルと趣を異にしていることに気がついた。
私が馴染みのある他のJAXAの衛星の運用では、各パスでの送信コマンドのリストを関係者全員に配布してブリーフィングを行い、そのリスト通りに運用を行うことを原則としていたが、「はやぶさ」の運用は必ずしもそうでは無いのである。
「誰も見たことの無い小惑星にタッチダウンする」、「機器の故障によって新たな運用方法の開発を強いられる」といった想定の範囲外の事象の連続である小惑星探査では、運用の最中においても臨機応変な即断を迫られる。それらに対処するために、事前に十分な検討をしておくこともさることながら、追跡運用の現場に判断や実行の所掌範囲が広く設定されていると共に、運用現場と各サブシステムの担当者や責任者との意思疎通が速やかに図られるようになっているのだ。ここではブリーフィングの代りに山ほど送られて来るメールがその役を務めている。
更に、臨機応変な対処のためには各サブシステムの担当者が十分な実力と現場で解析可能なツール(ソフトウエア)、及び、体力を持ち、即座に送信されてくるデータを解析し、その場で運用に必要な情報と解決案を導き出せること、更には、運用現場の責任者、最終的にはプロマネ、が全ての情報を熟慮した上で適切な判断を下せることが肝要なのだと実感する。JAXA職員、及び、協力メーカ、運用支援の方々からなる「はやぶさ」関係者は凄腕のプロ集団だと思う。事が起これば、プロマネの指令の下、正に24時間戦える「スカンクワークス」的に、問題を解決する方法を編み出してしまう。学位論文の1つや2つ簡単に書けるくらいの隠れた技術的成果が「はやぶさ」の周りにころがっているように見える。
しかし、このような経験で得られた貴重なノウハウは「はやぶさ」プロジェクトが終われば四散してしまう可能性がある。突き詰めれば、「技術は人」である。他国に先駆けた「はやぶさ」の貴重な経験を風化させることの無いよう、「はやぶさ」の後継機「はやぶさ2」の立ち上げを進めるべきだと、「新米スーパバイザ」は切に思うところである。
筆者紹介
照井さんの本業はロボティクスで、地球周回軌道上の故障衛星を回収する宇宙ロボットの画像誘導制御系の研究をしています。その関係でJAXA/JSPECでは、「はやぶさ2」が小惑星にタッチダウンする際の画像航法誘導制御系の検討を担当しています。まさに未来を創る仕事ですね。(IES兄)
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