関係者からのメッセージ

2010年6月11日

「はやぶさ」の運用に想うこと。

相模原管制センター 運用支援 川田 淳・中村 陽介(NECネッツエスアイ(株))

「はやぶさ」運用チームの業務は、探査機「はやぶさ」へコマンド(制御指令)を送信すること、及び「はやぶさ」から受信したテレメータデータ(探査機の健康状態データ、姿勢データ、コマンド受信データ等)をモニタリングし、異常やその兆候を発見次第対処することです。

私と「はやぶさ」との付き合いは、「はやぶさ」運用チームの一員として地上試験から参加して以降、既に8年となります。8年間と言うと当時オギャーと生まれた子供が小学2年生になる年月です。この8年間に、地上設備の更新、運用メンバーの変更等、様々な環境変化もありました。そして、今「はやぶさ」は地球への帰還を果たそうとしています。

今、「はやぶさ」運用を振り返ると「はやぶさ」と小惑星「イトカワ」のタッチダウン時の事を思い出します。タッチダウン時の「はやぶさ」と地球の距離は、2億9千万km(電波の往復伝播時間は約33分)という遠距離でした。

つまり、今見ている「はやぶさ」のテレメータデータは16分30秒前のデータであり、また、今送信するコマンドが「はやぶさ」に届いて実行されるのが16分30秒後となります。「はやぶさ」はコマンドが届いた時にどういう状態か、コマンドが実行されたらどうなるかを予測して、コマンドを送信する事が必要になります。更に必要なコマンドを送信した後、テレメータデータで「はやぶさ」の状態を確認するために割ける時間には大きな制約があります。この様な状態で、「はやぶさ」及び地上設備の通信系設定をその都度変更しながらコマンドを送信する必要があり、これは大変神経を擦り減らす作業となりました。

タッチダウン後に「はやぶさ」の電波が受信できなくなる緊急事態に見舞われ、通常の運用形態から外れ、様々な緊急措置が行われたこともありました。この時は、先ずはスペクトラムアナライザー(信号を探す測定器)を用いて、「はやぶさ」の信号を探すことから始まりました。やっとの思いで「はやぶさ」の信号を探し当てると「はやぶさ」がスピン(回転)しているため、探し当てた電波の受信状態が悪くテレメータデータを確認するのも容易では無く、辛うじて復調できたテレメータデータの生データから、バッテリーの状態を読み解かざるを得ない状態でした。しかしながらこの状態から脱出でき、電波捕捉ができてからは驚くほど順調に運用ができています。

「はやぶさ」が幾多の装置の故障や緊急事態に見舞われながらも、その都度問題を克服し、無事地球帰還を迎えられることは、「はやぶさ」プロジェクトメンバー全員の努力の結果であると考えます。この様なプロジェクトメンバーの一員として運用業務を担当できたことに感激しています。

「はやぶさ」は長い航行を終え、最後の力を振り絞り間もなく地球帰還です。サンプルリターンの使命を全うし地球帰還を果たそうとしています。

「はやぶさ」で培われた技術は必ず次世代へ受け継がれると信じ、最後の瞬間まで見守りたいと思います。


筆者紹介

川田淳さん、中村陽介さんは、相模原管制センタ(SSOC:Sagamihara Space Operation Center)で運用支援を担当しています。
共に「はやぶさ」を作る試験の時からオペレーターとして参加しており、言葉通り「はやぶさ」の全てを知る人です。このお二方が10年近く、自身の体調を管理しながら毎日管制卓について、雨の日も雪の日も万全の状態でコマンドを送ってくれたからこそ今日の「はやぶさ」があるのです。

「はやぶさ」の他、「さきがけ」、GEOTAIL、「はるか」、「のぞみ」、「あかつき」、という近代の衛星・探査機のオペレーターを行っており、まさに深宇宙通信のプロフェッショナルです。普段は表に絶対出てこない運用の要人、ひときわ大きく輝く『地上の星達』です。(IES兄)

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