関係者からのメッセージ
2010年6月11日
「はやぶさ」を支える臼田宇宙空間観測所の運用業務
臼田宇宙空間観測所 局運用支援 狩野 光夫・三上 俊彦(NECネッツエスアイ(株))
思い起こせば、長い道のりでした。「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」にタッチダウンするまでの工程は概ね順調でしたが、まさかタッチダウン後に衛星からの信号が消失する事を誰が予想したでしょうか?
信号消失後、真っ先に頭によぎった事は、1998年7月4日に打ち上げられた日本初の火星機「のぞみ」の運用です。「のぞみ」は不運にも通信機器のトラブルで信号が消失し、キャリアサーチ運用と1ビット通信を余儀なくされました。「のぞみ」で行なったキャリアサーチ運用は臼田運用者にとって本当に辛い日々でした。
キャリアサーチ運用とは、受信機では捕捉しきれない微弱な信号をスペクトラムアナライザ(信号を観測する測定器)を使用して捕捉することで、いつ現れるかわからない信号をひたすら見落とさない様に注意深く毎日可視時間中(約7時間)探し続ける作業を行ったのです。
結果的には「のぞみ」の信号を発見する事に成功しました。その日の事は今でも覚えています。その後の1ビット通信も大変苦労した事を覚えています。
今回の「はやぶさ」の運用でまさか「のぞみ」で培ってきた経験が生かされるとは誰もが思ってもいませんでした。「のぞみ」のキャリアサーチ運用では、手動で測定器の周波数を変えて信号を探す作業を地道に行なっていましたが、今回は測定器2台で異なった周波数を同時で測定し、パソコンで自動的に測定器の設定、信号の記録、測定器の画像を相模原に伝送する仕組みを構築し、かなりのスピードアップと運用者の負担軽減が図れました。その結果、消失してしまった「はやぶさ」の信号を発見する事に成功したのです。(私がまた発見できるとは思いもしませんでした。もちろん、相模原との連携が有っての結果である事は言うまでもありません。)
この様な苦労話はいろいろ有りますが、さまざまな困難を克服し、いざ「はやぶさ」ミッションがゴールに近づいていると思うと、大変寂しい思いで一杯です。「はやぶさ」地球帰還への運用に精一杯頑張って行きます。また、新たな「はやぶさ2」ミッションが始まる事を運用者一同信じています。いままで培ってきたノウハウ・経験・技術がまた生かされると思います。
更に2010年5月21日に打ち上げられた金星探査機「あかつき」と「IKAROS」のミッション成功にも貢献できるよう全力を尽くして行きます。暖かいご支援ご声援の程、宜しくお願い致します。
筆者紹介
狩野光夫さん、三上俊彦さんは、臼田宇宙空間観測所(UDSC:Usuda Deep Space Center )で局運用支援を担当しています。
長野県佐久市にあるUDSCの、はやぶさ君が「うすださん」と呼んでいる64mパラボラアンテナ(東洋最大)を駆り、火星軌道の向こうの「はやぶさ」からの声も逃さず捕まえてくれるのは、臼田で15年の運用経験を持つ狩野さんをはじめ、NECネッツエスアイ(株)のスゴ腕達が昼夜を問わず働いてくれているおかげなのです。(IES兄)
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