関係者からのメッセージ
2010年6月12日
ウーメラにて、「はやぶさ」の帰還を待つ!
航法誘導系 久保田 孝
宇宙研にはいって、私が最初に従事したプロジェクトは、M-Vロケットと「はやぶさ」プロジェクト(当時のコードネームは、MUSES-C)です。特に「はやぶさ」は、構想段階から検討に加わりましたので、かれこれ15年以上になります。
「はやぶさ」は、御承知の通り、小惑星「イトカワ」の探査を行い、サンプルを持ち帰るミッションです。成功すれば、太陽系の始まりの手掛かりを得られる、とてもわくわくするミッションです。一方、探査する小惑星の正確な位置はわからないし、大きさや形、表面の状態も行ってみないとわかりません。そんな天体に到達して、サンプルを持って帰ってくる、まさしくチャレンジングなミッションです。当時、チャレンジング過ぎると言われたこともありますが、工学者としては、逆に意欲を掻き立てられ、成し遂げるためのアイデアがたくさんでました。未知天体で、しかも往復30分以上の時間遅れがある中で、探査機が自律的に狙った小惑星表面に接近しサンプルを採取する方法を考案しなければならず、まさしく、ロボティクス(ロボット工学)の出番でした。
一番苦労したのが、小惑星表面にタッチダウンする際の横速度のキャンセルでした。小惑星表面は、自転により動いています。その自転に同期するように接近をしないと、探査機先端のホーンが表面に蹴られてしまいます。そのため、表面の動いている速さを検出することが必要になりました。私の専門は画像認識なので、真先に画像処理の方法を考案しました。しかしながら、小惑星表面が明るくて何もみえない可能性もあるので、画像処理方式は、バックアッププランとなり、ターゲットマーカ方式が採用されました。
目印となるマーカを表面におろして、それをカメラで捉えて横速度を検出する方式です。問題は、表面に落とした時にマーカが表面に静止する必要があります。小惑星は重力が非常に小さいので、短時間で静止させるためには、反発係数の小さい物体を落とす必要があります。アイデアを募ったところ、お手玉というユニークな方式が提案されました。お手玉を壁にぶつけても、確かに跳ね返ってきません。「これはいける」ということで、お手玉の原理を採用したターゲットマーカが搭載され、見事に探査機「はやぶさ」を小惑星表面に導きました。(開発の苦労話は別の機会に)
88万人の名前の入ったターゲットマーカが「はやぶさ」の影と一緒に小惑星表面にくっきりと映った画像を見たときには、とても感動しました。「はやぶさ」は、東京からブラジル上空の蚊を射止めるくらい、遠くて小さい小惑星に到達し、ジャンボジェット機でグランドキャニオンの谷間に着陸するくらい難しい着陸に成功し、迷子になって瀕死の重傷を負いながらも、地球めざして飛行を続けています。よく言われることですが、設計通りに探査機や衛星を作って、さらに魂をいれないとうまく動きません。まさしく、「はやぶさ」はみんなの願いを受けて、最後の力を振り絞って、いよいよ地球帰還します。構想から、設計、開発、運用までかかわることができて、とても幸運であり、「はやぶさ」に感謝いたします。
筆者紹介
久保田孝先生は、「はやぶさ」の航法誘導制御系やミネルバに携わり、今回は回収班としてオーストラリアに赴いています。
久保田先生はロボティクスと画像認識のプロフェッショナルです。人が行けない深宇宙こそロボットの出番。人類の分身として未踏の地で誰も見たことのない景色を眺め、任務を遂行する賢い探査機「はやぶさ」の頭脳には、久保田先生が開発した様々な航法誘導ロジックが詰まっています。(delta-V)
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