関係者からのメッセージ

2010年6月13日

次世代の「はやぶさ」に向けて

イオンエンジングループ/カプセル回収隊 本部班 小泉 宏之

自分が宇宙研に異動し、イオンエンジンの運用を始めたのは2007年の春。まさに、「はやぶさ」の復路ΔVがはじまったときだった。

それまでの大学における仕事でも、(イオンエンジンとは異なるが)電気推進研究を専門としていた。そして、経験は浅くとも電気推進研究の専門家であるとの密かな自負があった。しかし、宇宙研に来て研究をはじめ、「はやぶさ」の運用に関わり、自分は如何に無知であるかを思い知った。実宇宙機に関わるのは初めてであり、軌道計画、軌道決定、姿勢制御、通信、テレメトリ、地上局…、知らない事のオンパレードである。「推進機だけの宇宙機は存在しない」、昔どこかで聞いた言葉が強く思い出された。さらには、イオンエンジンμ10(ミューテン)の研究/開発の歴史と今を学ぶたび、その工学センスの高さに自身の専門分野においても上には上がいることを痛感した。

しかし、学ぶ事だらけの一からのスタートは、大学で初めて研究に出会った時のように、充実したものであった。そして、何より楽しかった。中でも、特に楽しく、かつ感銘を受けたのは各種会議における議論である。その道の第一人者同士が、年齢、立場、上下関係を超えて、一つの目標のために行う真摯な議論であった。さらに、たとえ自分のような初心者であっても(恐らく的外れな意見や生意気な発言もあったに違いないが)、自由な活発な意見を言える風土がある事に驚愕と歓喜を感じた。

その後、三年の間、「はやぶさ」の運用およびイオンエンジンの研究/開発を通して様々な事を学んでいった。宇宙機の運用/開発はどうあるべきかといった基本的な思想から、プラズマ物理に至る細かい点まで多くを学べた。そして、2008年からはカプセル回収の会議にも参加させていただき、回収隊の一員として、今、オーストラリアはウーメラにいる。

そして、今日、2010年6月9日、「はやぶさ」最後の軌道修正が終わりイオンエンジンはその役目を終えた。自分は復路のみの参加であるが、不調になりつつあるエンジンを懸命の想いで見守り、昼夜を問わず死力を尽くしてきた。この日を迎えられた事は感慨無量である。自分より遥かに深くこのエンジンに関わってこられた方々に至っては、その想いは計り知れない。

思えば、自分はつくづく恵まれた環境にいることを実感させられる。

「はやぶさ」プロジェクトの今は、多くの先人達の努力/実績の上に成り立っている。このような先駆的なプロジェクトを実現させ、そして成功させるためには、膨大な人の膨大な努力が、まさに血と汗が、あった事は想像に難くない。そして、自分はこの素晴らしいプロジェクトに関わることができ、さらには最後の瞬間に立ち会わせて頂いている。いわば、今の「はやぶさ」は、先人達から自分達若い世代への贈り物と言えるだろう。

そして、これが意味するのは、次の世代には自分達がこのような”贈り物”を残さねばならないという事だ。科学は、日々、進歩を続けている。自分達の”贈り物”は「はやぶさ」のさらにその上を行くものでなくてはならない。そうでなければ、次の世代の発展はないのだから。これが容易でない事は十分に認識しているが、きわめて大きな責任と重圧であるとことを忘れたくはない。今、自分にできる事は、現在のミッション/研究を最高のパフォーマンスでこなし、一つでも多くの事を学びとることだ。そして、それらの経験を糧にして、次世代にとっての“はやぶさ”ミッションを創造できるよう、不撓不屈の精神で宇宙開発に取り組んでいきたい。


筆者紹介

小泉さんは宇宙輸送工学・電気推進研究室の助手として電気推進機の研究開発に取り組んでおり、特に現在は、「はやぶさ」に搭載されたイオンエンジン「μ10」のノウハウを活用した1cm級小型イオンエンジン「μ1」の開発に精力的に取り組んでいます。

研究者としてのシビアな目と、好奇心旺盛な性格・行動力を併せ持ち、回収班にとってもイオンエンジングループにとっても必要不可欠な人材となっています。「はやぶさ」で培ったイオンエンジンシステムの未来の担い手として、必ずや次世代のプロジェクトをリードしてくれることでしょう。(IES兄)

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