関係者からのメッセージ

2010年7月5日

「はやぶさ」が「MUSES-C」と呼ばれていた頃

推進系・ターゲットマーカ担当 澤井 秀次郎

私が「はやぶさ」に関わっていたのは、主に打上げ前、つまり「はやぶさ」がMUSES-Cと呼ばれていた頃です。
その「MUSES-C」改め「はやぶさ」を再び目で見ることができるとは、正直思っていませんでした。それは、カプセル帰還の映像で、一緒に大気圏に突入して燃え尽きる姿でしたが、まさに華々しく散る様子。自分たちが精魂込めて作り上げたものが、灼熱の中で焼けていく姿は、悲しいというよりも、とても美しく、また、最期を看取ることができた、という感慨がわいてきました。

探査機の「はやぶさ」がこれほど注目を集めることになった、というのは、嬉しい反面、驚いてもいます。
たとえば、打上げの半年くらい前に、「はやぶさ」(当時はMUSES-C)の話をしに、西日本の某都市に出かけたときは、数百人入る会場で、聴講者はたったの数人でした。
小学生の女の子の2人連れが、「出るに出られない」という感じで、数時間、私の話につきあってくれたときは、内心、本当にありがたいと感じたものです。あのときの数名の来場者の方は、今でも、そのときのことを覚えてくれているのでしょうか。
講演後、「面白いですね」と会場のスタッフの方々が慰めて下さいましたが、私はその言葉は、本心から言って頂いたものだ、と思うことにしましたし、今でもそう信じています。
この例は、私が一般の方と接した中でもかなり極端な例ですし、MUSES-Cが「はやぶさ」と呼ばれるようになってからの数々のドラマチックな運用は、まさにインパクトのあるもので、そこの部分に惹きつけられた方も多いかと思います。
それでも、「はやぶさ」がMUSES-Cと呼ばれていたあの頃、私たちは一般の方々に対して、十分にこの「はやぶさ」の面白さを伝えていなかったのではないか?、それは今、進められているいろいろな研究でも、ひょっとして変わっていないのではないか?、近頃、そう反省しています。

「はやぶさ」をきっかけとして、科学の素晴らしさ、ワクワク感を、より多くの方にわかっていただきたい、と願いつつ、ややひねくれたメッセージをお届けします。

還ってきて、本当によかったです。


筆者紹介

澤井先生は、「はやぶさ」の推進系やターゲットマーカの開発に携わられました。
澤井先生が尽力された「はやぶさ」のターゲットマーカには世界中88万人の署名が書き込まれて、今でもイトカワ表面に置かれています。現在は小型科学衛星シリーズのプロマネとして、先進技術が詰まった標準バスを導入し、宇宙科学ミッションに新たな潮流を切り拓いています。(delta-V)

もっと詳しく

プレスキット

関連ページリンク