関係者からのメッセージ

2010年7月16日

「はやぶさ」&関係者の皆様、ありがとうございました。

化学推進系及び電気推進燃料供給系担当 高見 剛史(三菱重工業株式会社)

まずは化学推進系について。
古い話になりますが、「はやぶさ」がITOKAWAへのタッチダウン準備を始めようかというある夏の休日、プロマネの川口先生から携帯に電話が入りました。「スラスタ(化学推進系の小型ロケットエンジン)は、どのくらい短く噴射ができますか?」というお問い合わせでした。「はやぶさ」に搭載している姿勢制御装置の調子が悪くなった頃のことです。「はやぶさ」の姿勢制御を、化学推進系(RCS)で実施することになった場合の対策を考えられてのことでした。
元々RCSは微小姿勢制御用には考えておらず、通常の設定噴射時間では発生力が大きすぎて制御が大変になるため、なるべく小さくしたいとのことでしたので、そこから大急ぎで確認試験を計画、準備、実施して、最小噴射時間を地上試験用エンジンで確認、次に「はやぶさ」上でも実際に噴射を確認して、運用で使えるようにしました。
その後タッチダウンの際にも、ITOKAWAへの接近、着陸、離脱時の噴射に加えて、微小な姿勢制御も行い、タッチダウン成功に貢献できた時の嬉しさは今でも心に残っています。2度目のタッチダウン後には、ITOKAWA着陸の影響による想定外の損傷を受けて燃料漏れが発生し、残念ながらRCSは使用不可となってしまいましたが、姿勢制御装置系がまともに使えない状態で地球まで「はやぶさ」を帰還させた関係者の方々の知恵と努力は本当に素晴らしく、何度「すごい!」という言葉を繰り返したか覚えていないくらいです。

次に電気推進(イオンエンジン)燃料供給系について。
イオンエンジンは最初から最後まで想定以上の活躍をされ、その燃料供給系を担当させて頂いていた身としてはハラハラドキドキしっぱなしでしたが、何とか無事役目を全うすることができて安心しています。打上げ前に燃料であるキセノンを、一生懸命冷却・液化させながら、先生方と昼夜2交代でギリギリまで詰め込んだことが、昨日のことのように思い出されます。
「はやぶさ」からは、開発から打上げ、往路、着陸、復路、再突入まで、沢山の喜び(とつらさ)をもらいました。打上げに持っていくまでに先生方と共に苦労した開発の日々、タッチダウン運用の時にギックリ腰で大変だったこと、再突入時の光の束になった「はやぶさ」を見た時の寂しさ等々…。着陸時ITOKAWAに落ちた「はやぶさ」の影を見た時の感動(すみません、機械屋なのでモノが動いているのが見て分かる瞬間が一番幸せです)と、内之浦での大夕会の楽しい記憶は私の宝物です。「はやぶさ」と関係者の皆様、本当にありがとうございました。はやぶさ2での再会を楽しみにしています。


筆者紹介

三菱重工業株式会社の高見剛史さんは、「はやぶさ」のイトカワ到着・着陸で姿勢制御の要となった新開発の2液化学推進系(化学スラスタ)や、イオンエンジンの燃料供給系の開発に従事されました。
高見さんが開発された「はやぶさ」化学推進系は、残念ながら着陸の影響と思われる損傷による燃料漏れの憂き目に遭ってしまいましたが、スラスタは素晴らしい性能を発揮し、ホイールなしでの高精度離着陸という離れ業を成し遂げました。キセノン供給系も最後までイオンエンジンを支えてくれました。

高見さんはASTRO-Eから「ひので」までの化学推進系のご担当でしたが、内之浦での打上げ運用(フライトオペ)の宴会部長というもう一つの要職も歴任されました。「番頭さん」の名で知られ、「はやぶさ」打上げ前の大夕会(宴会)では川口先生に歌まで歌わせたという伝説の持ち主です。(delta-V)

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