関係者からのメッセージ

2010年7月20日

画像の思い出

マルチバンド分光カメラ(AMICA)チーム 横田 康弘

私が マルチバンド分光カメラ(AMICA)チームリーダーの齋藤潤さん に「『はやぶさ』をやらないか?」と誘われたのはイトカワ到着をひかえた2005年初頭でした。それまでの長い準備に参加していなかったのでためらわれたのですが、サポートで貢献すべく学生運用当番等をするうちに、AMICAとONC-T/W航法画像両方の現場に触れる貴重な機会を得ました。ここで思い出を振り返らせていただきます。

1.イトカワ着

8、9月頃。イトカワに到着し異様な姿が露わになると、皆と同じく私も度肝を抜かれました。ホームポジション(距離7km)に着くとまず、形状把握のために自転でイトカワの向きが変わるごとに画像が撮りまくられました。2つ目のリアクションホイール(RW)が壊れたのはその直後です。RW故障はその後に大影響を与えましたが、この日までもったことだけは不幸中の幸いでした。カメラ関係者間で「間に合いましたね」と安堵しあいました。

その後の観測期間、私は撮像運用補助の業務に就き、科学撮像運用の中心となる齋藤さんと石黒正晃さん(現ソウル大)をサポートし、撮像コマンド作成・チェック、そして取得画像確認を行う充実した日々を送ることができました。

2.衝効果と影

イトカワへ降下を試みたときのこと。私達は、数分おきに受信する画像(航法ダンプ画像)を解凍・モニタ表示させる作業をしていました。やがてイトカワの一部に丸く明るい領域ができはじめました。これは、天体・観測者・太陽が一直線に並ぶとき明るくなる「衝効果」という現象です。ところが、その真ん中は逆にぽつんと暗くなっています。これなんだろう?

ふと、石黒さんが「これ、「はやぶさ」の影では?」と言いました。探査機の影!! 衝撃でした。私はかつて数百km遠方で撮影された月探査画像を扱っており、その先入観から想像もしていませんでした。自分の迂闊さにあきれます。それにしてもこんなものを見るのは皆初めてで、接近して太陽電池パドルの形まで見えると皆さらに興奮です。これらの画像のひとつがNASAの「今日の天文写真」(Astronomy Picture of the Day)に紹介されたことも思い出です。

何度か降下をするうちに石黒さんが航法ダンプ画像の自動表示スクリプトを作りました。タッチダウン本番。数分おきに画像表示するPCの周りをチームの皆で囲んで感嘆の声を上げたことは、エキサイティングな経験でした。いつかまたこんな場にいられたら…と願います。

多くの画像中で私にとってとりわけ印象深いものは、11月20日、1回目のタッチダウンで88万人の署名入りターゲットマーカーを投下した際のONC-W1画像です。(http://www.isas.jaxa.jp/j/special/2008/hayabusa/11.shtml)。細かい砂利の「MUSES-C地域」の上に、最もくっきりとした「はやぶさ」の影が写っています。太陽電池パドル1枚1枚の隙間まで判別できます。ターゲットマーカーも写っています。「はやぶさ」の影の周囲には、衝効果による明るい円がはっきり現れてます。衝効果を調べるにはうってつけで、2006年米国での学会では、私はこの画像を使った発表をさせていただきました。

3.その後

「はやぶさ」の通信途絶後。私自身は幸運な事に翌年から「かぐや」の研究員に雇われる事ができました。2009年「かぐや」も無事に観測終了し(ただしデータ解析と研究はまだ真っ最中です)、この春から私は国立環境研究所で契約職員として地球観測衛星の仕事に就いています。「はやぶさ」の地球帰還はネットで興奮して見ました。それにつけても、カプセル回収を果たした現在と、あの化学スラスタ全損失の絶望的状況とを交互に思うと、驚嘆を禁じ得ません。この間非常に地道かつ創造的な運用を行った方々に深く敬服します。

そして地球を撮ったONC-W2画像。AMICA/ONC画像は着陸時が最後と思っていただけに、再び会えて感慨深いです。せめて最後にと思い、私は橋本先生にお願いしてこの画像に簡易的な迷光・スミア補正をさせていただきました(http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2010/0618_2.shtml)。味わいある元画像に加えて観賞していただければ幸いです。
欠損画像には2005年当時の補正ツールが使えないので、宇宙空間部分を「黒」の基準にして補正量を決めています。白飛び箇所は、データ欠損なので正解はないのですが、公開画像では判別できつつなるべく目立たないように明るい灰色で埋めてあります。画像には、アラビア半島付近の姿がきちんと収まっていました。このことは、撮像条件の厳しさゆえに迷光・スミアが生じたものの、カメラの性能は4年半の空白を経ても比較的良好に保たれていたことを示します。

「はやぶさ」のカメラは、もう画像を送ってくることはありません。ですが、これまでの画像には、まだまだ学術的な宝物が埋まっています。これからも科学的成果を引き出す作業は続きます。「はやぶさ」に関わった方々の努力に報いられるよう、微力ながら貢献していきたく思います。


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